ピアノ教室の生徒募集のための「やさしいマーケティング」3C分析

「生徒募集」はマーケティングそのもの

ピアノ教室が生徒募集をするとき、入会を希望する人にどんな教室かを知ってもらうことは、とても大切ですよね。

そのためには、募集する側の教室が自らのことをよく知っておく必要があります。また、教室を探している人は、どんな人で、どこにいるのか、などを知っておくことも、生徒募集には重要です。これは、生徒募集に限らず教室経営全般においても重要な要素です。

この大切なポイント「自分を知る」「相手を知る」そして「競争相手を知る」ことをマーケティング用語で「3C分析」といいますが、この分析の解説の前に、そもそも「マーケティング」とは何かをお伝えしましょう。

マーケティングって何?

継続的に生徒が集まる仕組み

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「マーケティング」という言葉は聞いたことがありますか?

「マーケティング」というのは、ビジネスの経営戦略の1つの分野で、簡単にいうと「商品やサービスが継続的に売れる仕組みをつくること」となります。

ピアノ教室に置き換えると「継続的に生徒が集まる仕組み」をつくることと考えてもいいと思います。

この仕組みをつくることが、「マーケティング」なんですね。

「マーケティング」というキーワードには、とても広範囲の活動分野を含んでいます。

大きく3つに分類すると

  • 市場調査・分析」:商品やサービスのマーケティングをより有効に行うために、市場に関する情報を収集・分析する
  • 商品企画・開発」:顧客のニーズから商品を企画・開発する
  • 広告宣伝」:自社商品のことを知ってもらい購入につなげる

となり、ピアノ教室の「生徒募集」は「広告宣伝」にあたります。

なぜ、マーケティングが大切か

最初から「継続的に生徒が集まる仕組み」が自然に出来上がることは通常あまりありません。「継続的に」というところがポイントです。偶然に生徒さんが入会するということはあると思います。

マーケティングには、その偶然を必然に変えて、能動的に「生徒さんが継続的に集まる仕組み」をつくり、教室の経営を成長・安定させるという目的があります。

継続的に教室を経営していくことは、先生だけでなく生徒さんにとっても大切です。それを実現するための手法の1つがマーケティングになります。

フレームワーク:3C分析

フレームワークって何?(読み飛ばしOK)

具体的な手法に入る前に、「フレームワーク」という用語について解説します。
(言葉の解説なので、すぐに具体的な手法を知りたい方は読み飛ばしても大丈夫です)

ビジネスで解決策を見つけるときに、このフレームワークという手法がよく使われます。直訳すると「枠組み」とか「構成」と言った意味になりますが、ここでは「様々な情報をある視点から整理する枠組み」のことを言います。一見するとばらばらな情報を、意味のある情報に整理するときに使われます。フレームワークの枠組みに沿って順に情報を整理していけば、モレがなく全体像をつかめるようになります。

フレームワークを使う思考法の逆のやり方は、「思いつき思考」です。思いつくままに、思考するとモレやダブりに気づかず、解決策を検討するときに重要な情報を見落として誤った判断をしてしまう可能性が高くなります。そういったことを防ぐ意味でも、フレームワークは有効な情報整理法になります。

フレームワークとは、3C分析の1種類だけではなく、目的に合わせて様々な種類のものがあります。お客様が商品を購入するまでの行動をモデル化した「AIDMA(アイドマ)」と呼ばれるフレームワークや、5W1H(「When(いつ)」「Where(どこで)」「What(何が)」「Who(誰が)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」)なども有名なフレームワークです。これまでビジネスの様々な場面で様々なものが提唱され、有効とされるものが使われ続けています。

ただし、一点注意が必要なのは、フレームワークはあくまで情報を整理するもので、解決策の答えが自動的に導き出せるものではないという点です。フレームワークを使って情報を整理しただけだと、課題解決!となる魔法のツールではないのですね。あくまで答えを見つける手助けをしてくれるものです。とはいえ、うまく使うととても便利なので多くの場面で使われています。

「自分を知り、相手を知り、競争相手を知る」3C分析

それでは「3C分析」」というフレームワークを使って、「自分の教室」と教室の経営に影響を与える身近な存在の「生徒さん」「競合」について考察してみましょう。先程のマーケティングの3分類のひとつ「市場調査・分析」にあたる作業です。

「3C分析」下記の3つの要素の頭文字を取って「3C分析」と呼ばれ、この3要素を分析して、勝ち手を見つけるときに使われます。

  • 市場・顧客(Customer)⇒ 「生徒さん」
  • 競合(Competitor)⇒ 「同じ地域内の音楽教室など」
  • 自社(Company)⇒ 「自分の教室」

ピアノ教室の場合は、3Cを「生徒さん」「同じ地域内の音楽教室など」「自分の教室」と置き換えられますね。

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3C分析をすることで、地域の中で「自分の教室」が現在どのような存在の教室かを確認し、今後は現状維持でよいのか、方針を変更して運営していくべきかの検討材料になります。

この分析が「生徒募集」の効果をより高めることにつながりますので、詳しく見ていきましょう。

市場・顧客「生徒さん」の調査

最初に「生徒さん」について調べていきましょう。

商圏=教室に通えるエリア

商圏とは「教室に通えるエリア」のことを指します。教室に通える範囲はどれくらいでしょうか。

  • 教室から半径1km、徒歩で10~15分以内のエリア
  • 教室から半径3km、自転車で10~15分以内のエリア

ピアノ教室の場合は、これくらいの範囲が商圏となる場合が多いのではないでしょうか。
教室に駐車場がある場合は車での通学ができるので、もう少し範囲は広がりますね。

この商圏内に居住している人が生徒さん候補のターゲットになります。

教室に通えるエリアに居住している人数

商圏の確認ができたら、そこに居住している人の年代別・性別の人口を調べます。
人口を調べる理由は、教室に通ってくれそうな人の数が商圏内にどれくらいいるかを把握するためです。

自治体によっては、自治体のホームページなどで地域の町名別の人口統計データを公開しているところがあります。このようなデータが手に入るのが理想ですが、難しい場合は商圏内にある小学校の生徒数などを参考にしてもよいでしょう。1学年のクラス数が分かれば、1クラスの上限が35~40名ですので大枠の数はわかりますね。1学年が3クラスだと40人×3クラス×6学年=720名となります。教室に通う生徒さんがその小学校に通っていたりすれば、聞いてみるのも手ですね。

他にも、高齢者が多くなっている地域かどうかや、大規模なマンション開発がされていたりするとファミリー世帯が増えることが予想される、など教室周辺の状況から人口構成を推測できます。

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商圏内の人口構成や人数によっては教室の生徒募集の方針にも影響するかもしれません。

小学生を主体に生徒さんを集めようとしてた教室が、商圏内の人口構成を考慮して大人やシニアを対象とした教室に方針転換するようなこともあるかもしれません。

詳しい人口統計のデータが手に入るようであれば、5年後の人口構成はどうなっているかも確認しておくとよいでしょう。
今2歳の子供は、5年後に7歳の小学生になります。今の7歳と比べて人口は増減していますか?
詳しいデータがない場合は、小学校の6年生と1年生の生徒数を比べると増減はありますか?
将来の予測も合わせてしておくと、教室の生徒さんの構成を徐々に大人シフトにした方がよさそう、となるかもしれません。

生徒さんの分析については、これ以外にターゲット設定というプロセスが、「生徒募集」にも重要な要素になりますが、これについては後ほど取り上げます。

競合「同じ地域内の音楽教室など」の調査

3C分析の2つ目は「競合」の調査です。まずは先に調べた商圏内にある「ピアノ教室」「音楽教室」について調べてみましょう。

Googleなどの検索エンジンを使って、「教室近隣の地名」+「ピアノ教室」などのキーワードで検索してみると、近隣にピアノ教室があればホームページが表示されます。そこからレッスン内容などの情報が調べられるでしょう。

チェックするポイントは

  • 教室の住所・立地
  • 対象としている生徒の年齢層
  • 教室のウリにしている点
  • 教室の理念や指導方針
  • 先生のプロフィール
  • レッスンのグレード(難易度)
  • レッスン料金(価格と時間と回数)
  • 入会金やその他の費用
  • 教室の営業時間(曜日と時間帯)
  • 生徒募集の受付状況
  • 教室の規約(振替レッスンの有無など)
  • 駐車場・駐輪場の有無
  • Googleの検索結果の表示順位
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調べた情報は、後ほど「自分の教室」を分析・比較するときに使います。
表にして整理しておくといいですよ。

また、実際に現地を訪れて教室の立地や周辺の環境など確認することで、ホームページだけでは得られない発見があるかもしれません。小学校の通学路に面していて看板を出している教室であったり、人通りの多い道沿いのマンション内で開いている教室だったり、狭い路地を入った中にある教室だったりと、その教室の特長が捉えられたりします。

あと、近くの教室は競合として良きライバルではあるものの、敵視する必要はありません。あくまで自分の教室の成長のために調査分析をすると心得てください。近くの教室が参考になることもたくさんありますので、良きお手本として勉強させていただくというくらいの気持ちで取り組みましょう。

ピアノ教室や音楽教室以外の競合

競合になるのはピアノ教室や音楽教室だけではありません。

小学生を集めたいということであれば、スイミングスクール、英会話教室、公文式などの他の習い事が存在するか確認して、立地や生徒の募集状況などをホームページなどから簡単な調査をしてみましょう。いろいろなスクールがある地域はそれだけ習い事に対しての意欲が高い人が住んでいるエリアと考えられます。

ただし、このようなスクールは直接的な競合ではないので、まずはその存在を知っておくくらいの意識で大丈夫です。

「自分の教室」の分析

現状の再確認

教室の現状を再確認しましょう。「競合」の調査で調べた項目を「自分の教室」でも同様に表に書き出してみましょう。

「自分の教室」と競合を比較

ここまでで、ひと通り「3C」の調査ができました。ここから分析を始めましょう。

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この3C分析の目的は、「生徒さん」「同じ地域内の音楽教室」の現状と、「自分の教室」を比較することで改善点がないかを確認することです。

調査結果を表にまとめることをおすすめしたのは、この比較のためです。

例えば、調査結果が下記の表のようになったとします。(データは、解説をシンプルにするために単純化しています)

ざっと比較してみて「自分の教室」のことで何か気づきはありましたか?

いくつかポイントになるところをクローズアップしてみましょう。

競合のメインの年齢層

生徒さんの年齢層が重なる本来の意味での競合は、小学生をメインにする「A教室」ですね。「B教室」は大人をメインにしているので、生徒さんを取り合う相手ではなさそうです。

「A教室」との比較を続けましょう。

「A教室」と「自分の教室」との違い

同じ小学生を主に集めている「A教室」との違いは、下記の点です。

立地

小学校と駅からは「A教室」の方が少し近い立地です。小学生を集めるには有利にも見えますが、これだけの情報では判断が難しいところです。

「自分の教室」の先に大きなマンション群があり、その通学路沿いに教室があるとしたら、そこに住む小学生は「自分の教室」の方が通いやすく、逆に「A教室」はそこに住む小学生からすると小学校を越えた先にあるかもしれません。このように立地は、ケース・バイ・ケースで状況が異なります。

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この場合の生徒募集の手段としては、「看板」「チラシ」が有効かもしれませんね。

通学路沿いに「教室」があるということは、見込み客が毎日「教室」の前を通るので、そこに「看板」をつけることで教室の存在をアピールできます。そこに「ピアノ教室」があるということが、頭の片隅にでも覚えてもらっているだけで効果があります。

また、チラシを通学路先のマンション群で配布することも選択肢に入れられます。

レッスン

レッスンに関連する項目で、はっきり違いあるのは「レッスン料」ですね。

そして、もう一つは生徒の募集状況です。「A教室」は空き枠が水曜日の午後だけということですので、レッスンのコマ数が「自分の教室」と同じだとすると、生徒数は多いということになります。

「A教室」は地元の小学生の中では人気教室のようですが、これは「自分の教室」にとってもチャンスがあるということです。ピアノ教室に通う見込みのある小学生が多くいる可能性が感じられるデータです。

では、はっきり違いのあった「レッスン料」ですが、「A教室」より月1,000円安い状況です。
これをどう捉えるか。

  • レッスン料の安さを売りにする
  • レッスン料を値上げして「A教室」と同じにする

レッスン料の金額設定は判断が難しいところで、安いからその教室に行くかというと、そうではない場合も多々あります。
先程の立地を優先する生徒さんもいれば、安いのには何か理由があるのではと考える人もいます。

先生本人がレッスン内容に自信を持っていれば、この例の場合は値上げすることを検討してもよい状況です。似たような条件でレッスン料が高い教室に生徒さんが多く集まっているということは、それだけ潜在力がある地域であるともいえるからです。

レッスン料は改善の余地がありそうですね。レッスン料を変更するのであれば、生徒さんの募集要項の料金も改訂する必要が出てきます。

「生徒さん」の調査結果から「自分の教室」を分析

現在の人口分布を分析

下の表は、ある教室の通学エリア内の人口分布を元にしたデータです。

年齢層現在の人口
0~4歳1,800人
5~92,500
10~142,400
15~192,300
20~241,800
25~291,200
30~341,800
35~392,600
40~443,100
45~493,600
50~543,300
55~592,200
60~641,600

教室が求める生徒の年齢層を見てみる「5~9歳」と「10~14歳」あたりが当てはまります。この人数を足すと4,900人になります。「自分の教室」では最大30人分のレッスン枠があったとしましょう。およそ160人に1人が入会してくれると教室が満員になります。

もう少し具体的にイメージしてみます。小中学校の1クラスが35人とするとおよそ4~5クラスに1人が入会してくれると、レッスン枠が満員になるということですね。1学年で2人か3人くらい集められると満員です。

「子どもとお出かけ情報サイト『いこーよ』調べ 2019年」では、7~12歳の72%が習い事をしていて、そのうちの19%が「ピアノ、エレクトーン」を習っているというデータがあります。

このデータに当てはめると少し乱暴な計算になりますが、通学エリア内の4,900人のうち、670人がピアノ・エレクトーンを習っているといることになります。これはあくまで目安ですが、670人中30人が入会してくれれば満員になります。ピアノを習っている子どもたちの22人に1人が入会という計算ですね。

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競合の教室の状況なども加味して、この数字が「自分の教室」にとって可能性が大きいのか、もしくは難しいのか、生徒さんのターゲット層(年齢層)が現状維持でよいか、他の年齢層に照準を合わせるのかなどを検討していきます。

将来の人口はどうなる?

現在の人口から、今狙える年齢層の確認をしました。では5年後はどうなっているのかも合わせて確認してみましょう。

人口
年齢層現在5年後増減率
0~4歳1,800  
5~92,5001,800-28%
10~142,4002,5004%
15~192,3002,4004%
20~241,8002,30028%
25~291,2001,80050%
30~341,8001,200-33%
35~392,6001,800-31%
40~443,1002,600-16%
45~493,6003,100-14%
50~543,3003,6009%
55~592,2003,30050%
60~641,6002,20038%

この表は、現在の人口を5年スライドさせた単純な予測になりますが、イメージはつかめると思います。

少子高齢化と言われて久しいので、想定の範囲内かと思いますが、小学校の低学年の人口が28%も少なくなっています。これは30人いた教室の生徒さんが自然に21人に減る計算になります。競合の教室が今と変わらない状況だと、同じパイの取り合いになるので競争が激化することになります。

一方、高齢化に目を向けてみると、55~59歳は、なんと5年後に50%も増えています。となると、シニア層向けのレッスンの構想も考えられますね。ただし、教室の理念や先生の志向もあるのでデータだけではなく、総合的な判断が必要になってきます。

3C分析のまとめ

「生徒さん」「競合の教室」と「自分の教室」を比較・分析することで、現状維持でよいのか、それとも改善点がないかなどを見出していくのが3C分析です。この分析を通じて、商圏内で「自分の教室」がどのような存在なのか、商圏内の人口の変化によって「自分の教室」も変化する必要があるのか等を検討し、教室運営の軌道修正をしていきます。

そして「生徒募集」の際も、ここで見出した方向性を反映していくことになります。

KUBO

まずは出来る範囲で「生徒さん」「競合の教室」を調査をしてみましょう。
簡単な調査をするだけでも、色々な「気づき」を与えてくれるでしょう。

それではまた次のレッスンでお会いしましょう。See you next lesson!!

執筆者プロフィール
コンサルタント

KUBO SUSUMU
(GroovyDigital代表)

レコード会社にて、制作ディレクター、マーケティングプランナーを経験し、音楽ビジネスでの実績を積む。

その後、IT企業にて、音楽配信サービスを立ち上げ、有料会員100万人以上を集めるサービスに育てる。音楽部門の事業責任者として多くの音楽・動画配信サービスをマネジメント。

長年の事業経営、オンライン&オフラインのマーケティングの経験をベースに、WEB制作&コンサルティング事業を手掛けるGroovyDigitalを立ち上げ代表に就任。

実家がピアノ教室を営み、妻がピアノ&声楽講師、そして親戚家族も音楽教室を経営するという生活環境で、音楽教室が身近な存在であったため、これまでの経験を活かして音楽教室の役に立ちたいという思いのもと、音楽教室/ピアノ教室専門の集客コンサルティングを行っている。

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